文化庁著作権課より1月23日付で募集がありましたパブリックコメント(「AIと著作権に関する考え方について(素案)」 に関する意見募集の実施について)に関し、以下の見解を提出をいたしました。
「AIと著作権に関する考え方について(素案) 」に関し、以下の通り見解を述べる。
「検討の前提」について
本項で具体的な利用行為に関する準拠法が例示されているが、日本の著作権法に準拠する事例に「本邦の法人が外国に所在するサーバー上で機械学習を行う場合」が含まれていない。これに該当する場合、サーバーの所在地の法に加え、日本の著作権法にも準拠すべきである。
「学習・開発段階」について
本項では、情報解析と享受目的の併存により法30条の4が適用されない場合について、1)「過学習」(overfitting)を意図的に行う場合、2)検索拡張生成(RAG)の内、生成に際して著作物の創作的表現の全部または一部を出力させることを目的としたもの、3)特定のクリエイターの作品群がいわゆる「作風」を共通して有しているにとどまらず、創作的表現が共通する作品群となっている場合に、意図的に、当該創作的表現の全部又は一部を生成 AI によって出力させることを目的とした追加的な学習(LoRA、Low Rank Adaptation)を行うため、当該作品群の複製等を行うような場合を例示している。これらを享受目的の併存と整理することは妥当と考えるが、Stable Diffusion、Midjourney、及びDALL Eを始めとする画像生成AIの基盤モデル(Foundation Model)作成にあたり、著作物を機械学習の用に供することも、以下の理由から、享受目的の併存により法30条の4の適用外とし、機械学習における著作物の使用は、著作権の原則に従って、著作者から著作物の使用許可を事前に得る必要がある。
- 画像生成AIの生成物は享受目的で作成される。しかしながら、機械的に生成された画像生成AI生成物には思想又は感情の創作的表現は存在せず、実際に享受されているのは、タグ付けにより特定の創作的表現の紐づけを行った上で機械学習に供された著作物に由来する創作的表現であり、その混合物である。故に、画像生成AIにおける機械学習は、著作物に表現された思想または感情の享受目的が併存し、第30条の4の権利制限規定は適用できない。
- 現在、前述の画像生成AIの基盤モデルはクリエイター名やキャラクターを大量に機械学習しており、LoRAを用いない場合でも、特定のクリエイターやキャラクターの創作的表現を有する作品を簡単に再現可能である。画像生成AI基盤モデルの事業者はこの状態を意図的に引き起こしており(Ho,2024)、「学習された著作物と創作的表現が共通した生成物の生成が頻発したとしても、これが、生成 AIの利用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成 AI に入力・指示を与えたこと等に起因するものである場合は、AI 学習を行った事業者の享受目的の存在を推認させる要素とはならないと考えられる」とすることは、不適当である。
また、本項では、法第 30 条の4ただし書の解釈に関する考え方として、「(イ)アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることを、著作権法上の著作権者の利益を不当に害することとなる場合には該当しない」と整理している。上述の通り、例えAI生成物がアイデア等が類似するにとどまるように見えたとしても、含まれる創作的表現は機械学習に供された著作物に由来する創作的表現である。そのため、AI生成物が大量に生成されることによってクリエイター又は著作物に対する需要がAI生成物に代替されてしまうのであれば、機械学習に供された著作物の権利者の利益を不当に害することなる場合に該当すると考えられる。実際に、本邦でも画像生成AIによって、生成AIを使用しない作品の売上の減少や、契約の打ち切りといった実被害が報告されている(高知新聞, 2023)。また、既存の著作物とアイデア等が類似している生成物が大量に取引されることにより、様々な販売プラットフォームで検索妨害といえる事態が生じており、それらのプラットフォームで、AI生成物を除外する対応が必要となっていることは、AI生成物が著作物の取引機会に影響を与えていることの証左である(ITmedia NEWS, 2023)。
(ウ)及び(エ)の事例については概ね同意するものの、機械学習における著作物の使用はオプトインの原則に従い、著作者から著作物の使用許可を事前に得ることが妥当である。
(オ)に示された海賊版等の権利侵害副生物をAI学習のために複製を行う場合については、これにより開発された生成AIによる生成・利用段階で生じる著作権侵害のみだけでなく、権利侵害副生物をAI学習に使用すること自体に罰則規定を設ける必要がある。現在使用されている画像生成AIは、Danbooru等の無断転載が横行するWebサイトの画像を意図的に使用していることからも、権利侵害副生物の学習段階における罰則規定なくして実効性は持たない。
「生成・利用段階」について
本項のイ著作権侵害の有無の考え方における(ア)類似性及び(イ)依拠性の考え方、並びにウ依拠性に関する主張・立証の考え方に同意する。
本項のエ侵害に対する措置について、AI利用者が侵害の行為に係る著作物等を認識していなかった場合を、故意又は過失が認められないとしているが、現在の画像生成AIはプロンプト等で特定の著作者や作品群等を指定しない場合であっても、著作権侵害物が多数生成されることが知られている。このような現状において、例え学習に用いられた著作物の創作的表現が生成・利用段階で生成されないとする技術的な措置が講じられ、かつ侵害の行為に関わる著作物を認識していなかったとしても、AI生成時に生成物による著作権侵害の有無を十分に確認していないのであれば、過失が認められると考えることが妥当である。
本項のキ侵害行為の責任主体について、①及び②に同意する。一方、③及び④について、上述の通り、現在の画像生成AIは、現在の画像生成AIはプロンプト等で特定の著作者や作品群等を指定しない場合であっても、著作権侵害物が多数生成されることが知られており、現行で用いられているとされる類似物の生成を防止する技術的な手段の実施をもって、事業者が侵害主体と評価される可能性を低くなるものと考えることは困難である。
「生成物の著作物性」について
本項ではAI生成物の著作物性を判断にするにあたり、①指示・入力の分量・内容、②生成の試行回数、③複数の生成物からの選択を例示しているが、いずれの場合においても以下の理由により、著作物性は認められない。判断基準は、アメリカ合衆国著作権局の事例及び「著作権登録におけるAI生成物を含む制作物の取り扱いに関する指針」に準じ(U.S. Copyright Office, 2023)、国際標準と同様の基準とすることを求める。
- 著作権の保護対象とするにあたって、人の創造性の産物のみが対象となる。プロンプト指示等によるAI生成物において、指定したプロンプトを受けて著者要件の伝統的要素である芸術的表現を行っているのはAIであり、指示者はAIによるプロンプトの解釈と表現にコントロールを持たない。そのため、著作物の著者としての基本的要件を満たさない。例え、プロンプトを工夫したり、沢山の生成物から吟味して画像の選択を重ねたとしても、芸術的表現そのものにコントロールを持たないことに変わりはなく、著者としての基本的要件を満たすことはなく、生成物が著作権の保護対象とはならない。
「最後に」について
画像生成AIにおける問題について、被侵害者は個人であることが多く、個々の侵害の事例を裁判をもって争うことは費用及び時間的観点からも負担が大きく、十分な判例の蓄積は現実的ではない。また、現在利用されている画像生成AIの基盤モデルは外国製であり、欧米を中心に生成AIに関する規制が活発に議論されているから、著作権法上における取扱いについても国際的な協調は不可欠である。引き続き、文化庁及び内閣府を始めとする行政機関が国内外を問わず、責任をもって問題を集積、分析し、必要とあらば速やかに適切な行政措置及び立法措置に繋げることが必要と考える。
引用文献
Ho, K. (2024) 6歳児を含む1万6000人の作家リストが流出。AIの訓練に使用したとしてMidjourneyに非難が殺到. ARTnews Japan. Available at https://artnewsjapan.com/article/1936. Accessed Feb 5, 2024.
高知新聞 (2023) 生成AI権利侵害恐れ. 高知新聞. 2023年12月21日(朝刊)
岡田有花 (2023) ITmedia NEWS. Amazonのグラビア写真集が「AI生成だらけ」な件 Spotifyでも“AI汚染”が. Available at https://artnewsjapan.com/article/1936. Accessed Feb 5, 2024.
U.S. Copyright Office (2023) Copyright Registration Guidance: Works Containing Material Generated by Artificial Intelligence. Available at https://www.federalregister.gov/documents/2023/03/16/2023-05321/copyright-registration-guidance-works-containing-material-generated-by-artificial-intelligence. Accessed Feb 5, 2024.