画像生成AIの適正使用及びそれに伴う著作権制度の整備等に関する提言(第2版)

提言

背景

 近年、人工知能(AI)は加速度的に進化を続け、言語と画像を紐づける言語画像モデルCLIP(Contrastive Language-Image Pretraining)及びノイズから画像を生成する拡散モデルの開発、そして、それらを基盤技術とする画像生成AIモデルであるStable Diffusionの登場により、画像生成AIの一般における使用が爆発的に広がった。一方、このような新しい技術の使用に関する適切なガイドラインや法制度は未成熟であり、様々な問題が生じている。

 第1種の問題は、現在使用されている画像生成AIの成り立ちに由来する。Stable DiffusionやMidjourneyなどの画像生成AIは、インターネット上から所有者に無断で収集及び複製した画像を教師データとして機械学習に使用している1)。また、Stable Diffusionに派生する画像生成AIモデルは、無断転載が問題視されるDanbooruやPinterestをはじめ、様々な画像投稿サイトのデータを使用していることも知られている2)、3)。Stable Diffusionが使用したLAION-5BはCLIPによって処理された約58億個の画像とテキストのペアを含むデータセットであり、ドイツの非営利団体(NPO)であるLAIONグループが作成した。データセットは人による精査を受けておらず、紐づく画像データは、子供の裸体、わいせつ画像及び医療画像などの問題のある画像、並びに、アニメのスクリーンショットやイラストなどの多数の著作物を含む。そのため、LAIONは、当該データセットは研究用を目的とする旨及び商用への使用を勧めない旨を明記している4)。しかしながら、Stability AI、CompVis及びRunwayの3者は、LAIONデータセットを用いて画像の所有者又は著作者に許諾を得ることなく機械学習させたStable Diffusionを、商用利用が可能なライセンス下で公開した5)。そして、Stability AIはStable Diffusionに対するWebアプリケーションやAPIを商用開発し、本来は研究用に作成されたデータセットを用いて開発されたStable Diffusionから収益を得ている。この著作物の無断使用は倫理的及び法的に問題とされ、Stability AIを始めとする画像生成AIの提供元に対し、画像を無断使用されたアーティストやGetty Imagesから複数の訴訟が提起されている6)、7)。Stability AIはLAIONに資金提供を行っており、画像生成AIの提供会社であるStability AIが、非営利の研究機関であるLAIONを経由して著作物を無断使用している実態に対し、データ・ロンダリングとの指摘もある8)

 第2種の問題は、画像生成AIの使用方法に関連する。具体的には、①特定のイラストレーター等創作者の著作物を、他者が著作者に無断で画像生成AIに追加学習させ、その創作者の制作物の特徴を模倣した画像及びそれを生成できる学習済みAIモデルを公開する9)、又は、②他者が無断で著作物を画像生成AIで直接的に改変し、異なる著作物のように公開する10といった行為が後を絶たない。

 本来、著作物の使用に際し、著作者の権利は著作権法によって保護されるが、2019年1月1日に施行された改正著作権法では、第30条の4において、情報解析の用に供する場合、使用する著作物の著作権の制限を認めることを明記している。本条項は、著作物の市場に悪影響を及ぼさない範囲で、AIによる機械学習などの情報解析に著作物を許諾なく利用できるようにするために設定された。そのため、「著作権者の利益を不当に害する場合はこの限りではない」とする但し書きが設定されており、機械学習に用いられる著作物の種類・用途・利用態様に照らし、著作権者の利益を不当に害する場合は権利制限の対象外とされる。画像生成AIが本但し書きに抵触するかどうかは諸説あり、結論は出ていない。類似の事例として、映画を作成する目的でディズニー映画をAIに機械学習させる行為は、著作権者の利益を不当に害する可能性が指摘されている11。また、2023年4月3日の参議院決算委員会における答弁においても、AI開発と著作権上の課題について、十分に議論がされておらず、政府としても明確な方向性を示していないことを明らかにしている12)。しかしながら、法解釈の議論の成熟を待つことなく、画像生成AIの機械学習における著作物の使用、さらに学習済みAIモデル及びそのAI生成物の公開も適法であるという考え方が一方的に広まり、上述の第1種の問題及び第2種の①の問題は、事実上野放しとなっている。最近では、公開された学習済みAIモデルを利用し、特定の創作者の制作物の特徴を模した画像(アダルト向けを含む)を生成、販売して収益を得る事例もあり、本来の創作者は、対価を受けることなく著作物を無断で使用されただけでなく、その技術が盗用及び悪用されている。

 上述第2種の②の問題は、現行の著作権侵害の要件となる依拠性及び類似性の観点からも明確な著作権違反と考えられるが、画像改変時の強度を調整するなど、元となった著作物の合法的な模倣を装うことも多く、該当のAI画像生成過程の情報を削除することによって立証は困難となる。画像生成AIによって日々大量の画像が生成される中、著作者個人が個々に解決する時間及び金銭的負担は大きく、著作権違反を指摘することで不当に攻撃を受けるケースも散見され、結果的に泣き寝入りするケースが多い。

 画像生成AIの使用に伴うこれらの問題は、2019年の著作権法改正以前に予測されていた。2016年から2017年にかけて首相官邸のもとで開催された新たな情報財検討委員会では、音楽や絵画/イラストなどを生成するAIについて報告され、AI生成物が他者の著作権を侵害する事例やAI生成物が悪用される事例について、今後想定される課題として議論されている13)。しかしながら、当時は具体的な問題事例が多くない状況であったことから、AI技術の変化の激しさも踏まえ、AIの技術の変化等を注視しつつ、AI生成物に関する具体的な事例に即して引き続き検討することとされた。本検討会では、AIの利活用を推進するための環境整備についても議論され、AIによる機械学習を推進するための著作権法の権利制限規定に関する制度設計を求めている。このAIによる機械学習を含むニーズに対応する著作権の柔軟な権利制限規定の整備は、文化審議会による検討を経て、2018年5月18日に成立、翌1月1日の施行された改正著作権法に反映された。当該著作権法改正に関する文化審議会による検討では、著作権の権利制限の対象は、第1層(権利者の利益を通常害さない行為類型)及び第2層(権利者に及ぶ不利益が軽微な行為類型)における使用を想定し、AIの機械学習は、第1層として、ネットワーク機能向上のためのキャッシュ生成や、電子計算機におけるキャッシュのための複製と同じカテゴリーに分類された14)、15)。具体的には、AIによる機械学習は画像データの特徴を識別することで、著作物に付随するメタデータを抽出・活用するといった使用を想定している。すなわち、新たな情報財検討委員会で課題とされ、現在乱用されている画像生成AIのように、イラストそのものを生成するといった、学習元となった著作物そのものと類似する性質を持つデータを生成する使用を念頭に置いた議論の形跡はない14)、15)。改正著作権法を審議した2018年5月17日の国会答弁では、第30条の4の但し書きの対象範囲が不明確であり、著作物利用に許諾を必要とする著作権法の原則の空洞化を招く危険性が指摘された。また、利用者が第30条の4を拡大解釈することによる権利侵害の横行、居直り侵害者の蔓延及び、泣き寝入りせざるを得ない権利者を産む懸念が提起され、産業界の要請と一時の政権の経済政策のために権利者を犠牲にする法改正を容認しない意見も述べられた16)。しかしながら、提起された懸念に対する具体的な対策の検討は無く、改正著作権法は賛成多数で可決された。結果として、現在生じている上述第2種の①及び②の問題は、2017年時点で予測されていたものの、適切なガイドラインや法制度は整備されず、未対応なままで今に至る。

 他者が特定の創作者の著作物を標的とした学習済み画像生成AIモデルを作成、公開、使用することは、当該創作者の著作物を偽る制作物の流通を容易にし、市場を混乱させ、当該創作者の評判を貶めるとともに、著作物全般に対して不利益を及ぼす。前述のとおり、著作権法30条の4は「著作権者の利益を不当に害する場合はこの限りではない」とする但し書きが設定されているが、本規定は「著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的市場を阻害するか」という観点から最終的に司法の場で判断されることになるとされ17)、特定の著作者を標的とした学習済み画像生成AIモデルが日々大量に作成される中、著作者個人が多額の費用と時間をかけ、その都度訴訟を通じて解決することは現実的ではない。画像生成AIが、著作権改正時の想定と大きく異なる次元で使用され、それに伴って多くの問題が生じていることを鑑みると、法の適切な規定とその適用をもって解決することが適当である。

 画像生成AIは画期的な技術であり、創作を資産価値の中心とするクリエイティブ業界及びコンテンツ業界に対して長期的に資することが期待されるものの、黎明期特有の混乱がもたらす弊害は大きく、一刻も早い対応が求められる。そのためには、画像生成AIの適正使用及びそれに伴う著作権制度の整備等が必要であり、基本方針として以下を提言する。

提言

  1. Stable Diffusionに代表される画像生成AIの機械学習における著作物の使用は、著作権法30条の4に規定する著作物の権利制限の対象外とすること。
    • 画像生成AIの学習における著作物の使用は著作権の原則に従いオプトイン方式とし、著作者から著作物の使用許可を事前に得ること。
  2. 画像生成AIの使用において、AIの機械学習に使用した著作物の著作者に対し、学習への使用及びそのAIが消費者に使用された回数等に応じた使用料を支払うこと。
  3. 著作権は、これまで通り、思想または感情の創作的表現に与えること。
    • 画像生成AI生成物においては、すべて又は大部分がAI生成物である制作物を著作権の保護の対象とせず、創作的寄与が明確に認められるもののみ保護の対象とすること。
  4. 画像生成AI生成物は、AI生成物であること及びその起源の明示を義務付けること。
  5. 画像生成AIを、著作権法にとどまらず、人権侵害や安全保障を含む幅広い観点でリスク評価し、国際的な枠組みに沿って適切に規制すること。

 AIは概して生産性の向上やコスト削減等のメリットをもたらす。創作においても、AIの寄与はこれまでも、また今後も疑い無いものの、画像生成AIをはじめとする技術の劇的な進歩を踏まえ、今後の創作世界及び産業の発展、並びにAIとの共存を模索するにあたっては、著作権者の保護及び著作者への利益の還元を確保することに一層の注意が必要である。画像生成AIの使用から著作者が対価を得るためには、学習に使用された著作物と著作者を連結する必要があり、また著作者本人の自由意志による参加及び使用許諾を保証するために、著作権の原則に従ったオプトイン方式が適切である。著作物の機械学習への使用拒否を示すことで初めて教師データから除外されるオプトアウト方式の適切な運用にあたっては、50億枚以上の無断使用画像データを著作者が個々に確認する必要があり、新しい画像生成AIモデルが日々構築されていること、画像掲載プラットフォーム間で無断転載が横行していることを踏まえると現実的でない。本来、著作物の使用許諾取得と適切な使用の責任は、著作者ではなく、著作物の使用者が負うものであり、オプトアウト方式のように、著作者にその適切な使用確認の責任を負わせることは不適当である。また、画像生成AIの学習に著作物の無断使用が氾濫している現状において、あえて使用の許可取得の労力及び使用料を負担しながら、画像生成AIを善意によって構築することは困難である。無断学習で製造された学習済み画像生成AIを法によって適切に規制することで、はじめて著作権を適切に取り扱い、かつ著作者への使用料等による利益還元が確保された画像生成AIを誘導及び実現することができる。著作権者は自身の著作物を学習させた画像生成AIを製造でき、それを活用、場合によっては商用にライセンスを供与するなどし、画像生成AIから適切に著作物使用の対価を得ることができる。そのために、画像生成AIの機械学習は、著作権法30条4に規定する著作物の権利制限の対象外とする必要がある。

 画像生成AIは大量の制作物を短期間に生成でき、理論上、電子データとして存在するあらゆる表現の組み合わせを網羅することができる。それらのAI生成物、またはその微細な修正物に著作権を認めることは、画像生成AIを用いて大量に画像を生成する個人または法人による不当な著作権の独占を引き起こし、自由な創作を阻害する。そのため、画像生成AI生成物においては、大部分が画像生成AIによらない作業で構成されるなど、創作的寄与が明確に認められるもののみを著作権の保護対象とする必要がある。一方、創作的寄与が乏しく本来は著作者足りえない者が、AIを使用せずに自ら創作した作品であることを僭称し、著作権を主張する事例は増加しており、僭称コンテンツ問題はすでに顕在化している。そのため、画像生成AI生成物には、それがAI生成物であることの明示、生成ログの維持、及び使用したAIモデルやデータセット等の起源を明らかにするなど、透明化を義務付ける必要がある。しかしながら、AI生成物の僭称は日々巧妙化しており、今後、著作権侵害に関する争いが多発することが予想されることから、著作者は、自身の創作プロセスを綿密に記録するなど、立証の工夫が求められる11。この画像生成AI生成物の透明化は、ディープフェイクの悪用防止の観点からも重要である。最近、画像生成AIを用い、実在する人物の写真を無断改変し、悪意をもって架空の状況をでっちあげる18)、又はわいせつ画像に変換するなどの悪用が多数報告されており19)、AI生成物によるディープフェイクが社会に与える悪影響は大きい。

 画像生成AIやChat GPTの登場を受け、AIを取り巻く海外の動きは活発であり、各国は責任あるAIの実現に向けて適切に規制する方向で一致している。

 欧州連合(EU)では、AIの取り扱いに関する包括的な法規制について2018年から議論が継続している。2021年4月には、人々や企業が安全で保護された環境下でAIを活用できる法整備を目的に、現在のEU AI Actの草案を公表した20)。草案では、使用するAIの種類や目的に鑑み、4つのリスク類型(受容できないAI、ハイリスクAI、透明性義務を伴うAI、及び極小リスク/リスクなしAI)に分類し、それぞれの類型のリスクに応じて規制の内容を変えるリスクベースアプローチを採用している。EU AI Actは2023年中の発行が見込まれ、現在もEU議会で活発に議論している。直近では、GPT-3やStable Diffusionを含む汎用AI(General Purpose AI:GPAI)の分類が注目されており、EU AI Act作成の筆頭議員であるBenifei及びTudoracheらは、GPAIをハイリスクAIに分類することを提案している21)。ハイリスクAIには、透明性確保、人間による監視、自動生成ログの維持義務などが課され、事前にEU規制当局の適合性評価を受ける必要がある。現時点で、画像生成AIが分類される類型は確定していないものの、EU AI Actはディープフェイクに透明性義務を課すことを明記しており、画像生成AI生成物は、AI生成物であることの表示など、透明化の義務を負うと見込まれる。なお、EU AI Actは罰則規定を設けており、違反者には最大3000万ユーロまたは全世界売上高の6%のいずれか高い金額の制裁金を課すなど、責任あるAIの実現に向けて、厳しい姿勢で臨んでいる。なお、EUではデジタル単一市場著作権指令3条及び4条で、機械学習での著作物の使用について規定している22)。3条では、研究目的に限り、著作者の権利の留保の有無を問わず、著作物を機械学習に利用可能としている。また、4条では、営利目的の場合、機械学習への著作物の使用について、著作権者によって明示的に留保されていない場合のみ、著作物を機械学習に利用可能としている。これらの規定について、包括的なAI法制の議論を踏まえ、今後、さらなる議論が生じると予想される。

 著作物の機械学習への使用については、英国政府が他国に先んじて方針を示した。英国はAI技術開発を推進するため、2022年6月28日、英国政府が著作者の許諾なく著作物を機械学習に使用することを認めた23)。しかしながら、2023年1月17日、貴族院の Communications and Digital Committeeは、この方針がもたらすクリエイティブ産業への深刻な懸念を報告し、許諾のない著作物の機械学習を容認する政府方針を即時撤回することを勧告した24)。その後、2023年2月1日、英国科学研究イノベーション大臣は、許諾のない著作物の機械学習を認めない方針を明確にした25)。報告書では、創作物や類似物が簡単かつ低価格で複製及び配布されるようになること、製造現場がより適切な法規制を持つ国へ移行すること、AIによって創作従事者が置き換わることなどが指摘されているが、政府方針の撤回要求は、創作者の被害救済という短期的視点だけではなく、今後の英国経済の成長セクターや競争力の源泉を踏まえた長期的展望による判断であることは特筆すべきである。具体的には、クリエイティブ産業が英国内外で急速に成長している産業セクターであり、英国経済の年間の粗付加価値の6%を占めるなど規模が大きく、今後の英国経済の成長エンジンとして期待されていることを述べ、その基盤が英国の頑健な知財及び著作権制度であり、政府方針が知財及び著作権制度を事実上骨抜きにすること、それにより、創作者の権利が守られず、新しい価値を生み出すインセンティブが働かなくなることが深刻な問題と指摘している。一方、Stable Diffusionを含む最新の生成AIについても触れ、AI生成物が直接的な価値を産むか懐疑的な状態であること、発展中の仮想現実(VR)領域等で米国の巨大IT企業が英国企業を規模で圧倒するとの予測も踏まえ、AIは重要技術としつつも、長期的展望を見据え、今後も英国の強みと経済成長の源泉であるクリエイティブ産業を、AI技術開発の犠牲にすべきでないと判断した24)。その後、英国では3月29日に新たな白書を公表し、AIのもたらすベネフィットとリスクに対して適切かつ迅速に対応するため、AI技術類型ごとではなく、使用方法に焦点を当てた規制の枠組みを採用する方針を明らかにした26)

 米国では、EUと比較し、AIに関する包括的な法整備の議論は進んでおらず、米国連邦取引委員会(FTC)法の解釈や公正信用報告法などで個別の項目にAIの規制を施行していたが27)、2021年10月より米国科学技術政策局がAIに関する包括的な指針であるAI権利章典の作成を開始し、2022年10月にホワイトハウスが5つの原則をBlueprint for an AI Bill of Rightsとして発行した28)。また、2023年3月、全米最大の経済団体である全米商工会議所(The U.S. Chamber of Commerce)が、AIの倫理的かつ責任ある運用を確実にするため、リスクベースアプローチを採用した包括的な法整備を求める提言を行うなど29)、今後、欧州に準じた法整備が想定される。一方、米国ではAI生成物の著作権上の取り扱いについて議論が進んでいる。アメリカ合衆国著作権局は、2018年11月3日にSteven Thalerが著作権登録を申請した画像生成AI生成物に対し、十分な人の創作的寄与が認められないことを理由に、翌8月12日、登録を拒絶した。申請者は不服を申し立て、再度申請したものの、2022年2月14日に再び登録を却下されている30)。最近では、Kristina Kashtanovaが2022年9月15日に申請した、画像生成AI(Midjourney)を用いて制作したコミックスについて、2023年2月21日、アメリカ合衆国著作権局は、プロンプト指示によって生成された画像に著作権を認めないと結論した31)。増加するAI生成物の著作権登録申請を受け、2023年3月16日、アメリカ合衆国著作権局は、著作権登録におけるAI生成物を含む制作物の取り扱いに関する指針を発行した32)。指針では、人の創造性の産物のみが著作権による保護対象となることを確認した。そして、著作権の保護にあたり、文学的、芸術的といった著者要件の伝統的要素の表現者の主体を重視し、プロンプト指示によるAI生成物において、指定したプロンプトを受けて著者要件の伝統的要素である芸術的表現を行っているのはAIであり、指示者はAIによるプロンプトの解釈と表現にコントロールを持たないことから、著者の要件を満たさないとする見解を示した。

 中国では、2023年1月10日、国家インターネット情報弁公室が新規則を発行し、中国国内でコンテンツを流布するコンテンツ生成AI(画像生成AIを含む)に対して、使用者の実名登録及び人の顔等を生成する際などにAIによる生成であることを表示を義務付けた33)。また、2023年2月24日、中華人民共和国科学技術部は、AIに対する包括的な規制を導入する方針を明らかにした34)

 このように海外でAIをめぐる規制は活発に議論されており、その議論は著作権法上の取り扱いを超え、人権侵害や安全保障など多岐にわたり、AIの取り扱いに関する包括的な法規制へ向かっている。上述の通り、画像生成AIがディープフェイクや、わいせつ画像への変換など、肖像権やパブリシティ権を侵害する事例が多発していること、また、AIを用いて著作物の類似物を氾濫させるなどして著作権制度を棄損することで、世界人権宣言第27条にも規定されている「すべて人が有する、その創作した科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利35)」を侵害すること、そして、それらを簡単かつ大量に引き起こすAIの特性を考慮すれば、画像生成AIを人権侵害の観点でも適切に評価、規制する必要性は十分に肯定される。すでに、中国のゲーム業界では、画像生成AIの採用により、イラスト制作やキャラクターデザインなどの業務における価格破壊及びクリエイターの解雇が進むなど、急速な労働環境の悪化が報告されている36)。同様の事例は欧米を含む各国で生じており、経済的観点からも対応が求められている。AIをめぐる包括的な法規制に関する議論は欧米が先行するものの、我が国においても、画像生成AIを、著作権法にとどまらず、人権侵害や安全保証を含む幅広い観点でリスク評価し、新たな法規制を含む対策が速やかに求められる。昨今、欧州においてChat GPTが一般データ保護規則(GDPR)に違反する可能性を指摘し、イタリア当局がChat GPTの国内での使用を停止したこと37)、米国においても、Center for AI and Digital PolicyがFTCに対してGPT-4の使用停止の申し立てを行ったことなどを踏まえれば38)、画像生成AIのリスク評価で問題が確認された際には、問題が解決するまで画像生成AIを使用停止とする措置も適当と考えられる。

 AIは多くの国や地域を跨いで使用され、それぞれの地域に応じた規制に従う。そのため、今後の欧米製にプラットフォームの導入及び我が国発のAIの国際展開への対応、並びにAIの犯罪及び軍事的使用などの安全保障上のリスクへの国際協調的な対応を考慮すれば、EU及び米国を念頭に、国際的に調和した法制度の導入が必要となる。

 本提言は、現状を踏まえ、適切な倫理の下で、創作及び産業の双方の発展を企図するものである。また、2018年5月18日に成立した改正著作権法で本来想定された第1層(権利者の利益を通常害さない行為類型)に合致するAIの機械学習における著作物の権利制限を対象とするものではなく、著作権法改正時に想定した第1層とは異なる次元で使用される画像生成AIの適切な使用と、著作者の権利の保護を促すものである。本提言を実行するためには、画像生成AIの定義及び範囲、並びに著作権を付与する画像生成物の範囲などの具体的な内容から、AIに関する国際協調的かつ包括的な規制など、幅広い内容について、様々なステークホルダーを交えた議論が必要となり、完全な実現には相応の時間がかかると考える。一方、画像だけでなく、映像、音楽など、多方面にわたり、生成AIの適正使用と著作権保護の関する基本的な考え方として適用可能と考える。

 生成AIに関する議論は発展途上であるが、本提言が呼び水となり、各所でさらなる議論が進むことを期待する。議論の発展に伴い、本提言も適宜改訂する。

クリエイターとAIの未来を考える会 有志

2023年2月18日 第1版発行
2023年4月15日 第2版発行

参考文献

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